砥部焼(とべやき)とは、愛媛県の伊予郡砥部町を中心に製造される陶磁器。1976年には、優れた技術と技法の伝承が認められ、経済産業大臣が指定する国の「伝統的工芸品」になっています。
土地の材料を使い職人の手作業で作られる砥部焼は、独特の温かみがあり厚手で丈夫。現代の暮らしに合う実用的な作品が多いことも魅力のひとつです。
デザインは伝統的なものから、シンプル、モダンなものまでさまざま。最近では、女性や若手陶工によって作られる、伝統にとらわれない新鮮な作品も増えています。
砥部焼は1777年に伊予国大洲(現在の愛媛県大洲市)で発祥しました。当時、伊予国大洲では伊予砥(いよと)という砥石が特産品としてありました。しかし、砥石の生産だけでは財政的に厳しかったため、新たな産業として砥部焼が生まれ発展していきました。
当時、伊予国では良質な陶石と、周辺の山々から燃料となる赤松が大量に採れました。また、町全体に傾斜があるため、窯を築くのに最適でした。そこで、これらの焼き物に適した土地柄を活かすため、砥部を治めていた大洲藩は独自に磁器を研究。試行錯誤を重ね、2年半の歳月を掛けて陶焼を成功させ、砥部焼を生産し始めたのです。
明治時代に入り廃藩置県が起きると、唐津や瀬戸などからの工芸技術者の行き来が盛んになりました。それによって陶磁器の先進技術が伝わり、砥部焼の生産技術は向上。大量生産も可能になりました。
大正時代に入ると、瀬戸や美濃などではろくろを使った焼き物の生産など、近代的な技術を取り入れるようになりました。しかし、砥部焼は古くからの手仕事が多い生産方法を続けており、ほかの産地の発展に押されていきます。現在では戦後の民芸運動の影響もあり、手仕事の伝統技術が高く評価され、砥部焼の魅力は広く伝わっています。